「医療と消費税に関するシンポジウム~持続可能な医療提供体制の構築に向けて~」 本学東京赤坂キャンパスにて開催
本学社会保障政策研究所は5月9日、読売新聞社との共催で「医療と消費税に関するシンポジウム~持続可能な医療提供体制の構築に向けて~」を東京赤坂キャンパス講堂で開催しました。
本シンポジウムは、病院経営を強く圧迫する要因となっている「控除対象外消費税=損税」の問題を医療サービス提供の持続可能性を含む社会保障の政策課題として位置づけ、各界の有識者を交え、具体的な解決策と改善の方向性について議論を深めることを目的に開催されました。
シンポジウムは「オープニング」「第一部 問題提起」「第二部 パネルディスカッション」「指定発言」で構成され、日本を代表する下記の有識者のみなさまにご登壇いただきました。

登壇者
開会オープニング
- 高木邦格(学校法人国際医療福祉大学理事長)
- 安部順一(読売新聞東京本社取締役副社長)
第一部 問題提起
- 伊藤伸一(日本医療法人協会会長)
- 今村英仁(日本医師会常任理事)
- 水谷忠由(厚生労働省医政局総務課長)
- 上竹良彦(国際医療福祉大学特任教授、元国税庁消費税室長・高松国税局長)
- 大林尚(国際医療福祉大学特任教授、元日本経済新聞論説委員)
第二部 パネルディスカッション
- 塩崎恭久(元厚生労働大臣)
- 神野正博(全日本病院協会会長)
- 堀真奈美(東海大学教授)
- 仁木博文(厚生労働副大臣)
- 梅村聡(衆議院議員)
- 矢野康治(国際医療福祉大学社会保障政策研究所長)
第三部 指定発言
- 瀧口登志夫(キヤノン株式会社副社長)
- 多田荘一郎(総合メディカルグループ株式会社社長)
- 横手幸太郎(千葉大学学長)
- 山本修一(地域医療機能推進機構理事長)
シンポジウム開催にあたり祝電をくださった方々
- 片山さつき財務大臣
- 上野賢一郎厚生労働大臣
- 田村憲久衆議院議員(元厚生労働大臣)
病院の消費税問題は医療界最大の課題
冒頭、開会の挨拶に立った高木邦格理事長は、医療機関における消費税負担の問題を「医療界最大の課題」と位置づけ、制度導入時から現在に至る経緯を自らの経験を交えて振り返りました。「1989年の消費税導入時は、医療機関も十分な利益がある時代でした。医学生時代、ある国会議員の医療政策担当秘書をしていたことがあり、日本医師会の羽田春兔会長から月1回厚生省の医療政策についてレクチャーしに来るよう言われ、ご説明に上がっていました。同じくご縁のあった渡辺美智雄衆議院議員からご連絡があり、大蔵省は医療については課税でも非課税でも構わない、医師会が望む通りにするので、羽田会長に相談してほしいと持ち掛けられました。私は、将来的に税率が上がった場合を見据えて課税にすべきであると、羽田会長に訴えましたが、聞き入れられなかった。もしあのとき何としてでも羽田会長を説得していたら、また時代の1つの異なる局面があったのではないかという反省もございます」と、医療界が非課税方式を選択した背景に触れつつ、その後の税率引き上げと医療機関の設備投資拡大により、損税問題が深刻化したことを指摘しました。特に大学病院や高度急性期医療を担う医療機関では、高額医療機器や施設整備に伴う消費税負担が経営を圧迫し、地域医療体制にも影響を及ぼしていると述べました。さらに「医療界最大の課題である消費税問題は、私が理事長を務める間にきちんと検討して、次の世代につなげなければならない」と決意を述べ、税制・社会保障・医療提供体制を一体的に捉え、医療界のみならず政界、官界、メディア、国民を含めた幅広い議論を通じて、持続可能な制度設計を進める必要性を訴えました。

共催の読売新聞東京本社の安部順一副社長は、「医療と消費税の問題は病院経営だけでなく、医療の質や地域医療の維持にも関わる国民的課題」と指摘しました。高度医療機器や施設整備に伴う消費税負担が大学病院経営を圧迫している現状に触れ、本シンポジウムが制度見直しに向けた建設的議論の契機となることに期待を示しました。

課題整理には各界の有識者が登壇
第一部の課題整理では、本学社会保障政策研究所の矢野康治所長がモデレーターを務め、5人のプレゼンター1人ひとり紹介をしながら、議論の進行を行いました。
1人目のプレゼンターとして登壇した日本医療法人協会の伊藤伸一会長は、まず「1989年の消費税導入以降、医療機関の仕入れに係る消費税負担については診療報酬による補填方式が採られてきたものの、制度上の限界が顕在化している」と指摘し、「診療報酬改定の過程で補填部分が包括化・埋没化し、実際にどの程度補填されているのか不透明になっている」と説明。病院機能別の平均値では補填されているように見えても、個々の医療機関では大きなばらつきがあり、特に高度医療機器や建築投資を行う病院ほど補填不足が深刻化していると述べました。
さらに、補填方式の限界を示す重要な判例として、2012(平成24)年11月27日の兵庫県民間病院団体による消費税訴訟の神戸地裁判決にも触れました。原告側の請求は退けられたものの、判決は医療機関が一般事業者のように価格転嫁できないことを踏まえ、消費税法施行当初からその代替手段として診療報酬改定による対応が想定されていたと指摘。そのうえで、厚生労働大臣には、医療法人等が負担する「仕入れ税額相当額の適正な転嫁」に配慮した診療報酬改定を行う義務があり、このような配慮が適切に行われていない場合には、裁量権の逸脱又は乱用と評価し得るとの考え方を示しました。補填状況の調査結果を踏まえ、現行制度は判決が求める「適正な転嫁」の観点から見ても十分とは言えないとした上で、インフレ局面では診療報酬改定のみで対応する仕組みには限界があると強調。抜本的解決策として、社会保険診療を軽減税率による課税取引へ転換し、「税の問題は税で処理する」制度への移行が必要だと訴えました。

続いて日本医師会の今村英仁常任理事が登壇し、医療における消費税問題は「長年の懸案であり、地域医療の持続可能性にも影響しかねない問題」と指摘。日本医師会としては、直近では、病院については軽減税率による課税化を求める一方、診療所については事務負担や地域医療への影響を考慮し、現行の非課税制度を維持しながら補填を継続することを要望していると述べました。
また、設備投資時の消費税負担については、減価償却を通じて長期にわたり補填される現行方式では、投資初年度のキャッシュフロー悪化に対応できず、特に物価高騰局面では極めて切実な問題と説明。さらに、地方の診療所や高齢医師が担う地域医療への影響にも配慮が必要であり、国が解決方法の検討を進めるべきだと話しました。

3人目は、厚生労働省の水谷忠由医政局総務課長が登壇。「補填率は病院機能ごとの平均値で把握されているものの、個々の医療機関では大きなばらつきが存在し、高額医療機器の購入や設備更新時には構造的に補填不足が生じやすい」としたうえで、課税化を進める場合には、「税体系との整合性、医療機関の事務負担、事業税非課税措置など既存の優遇制度との関係整理が必要になる」と指摘。さらに、病院と診療所で異なる課税関係を設けた場合の国民への分かりやすさや制度設計上の課題にも言及しながら、物価高騰下で医療機関経営が厳しさを増す中、必要な設備投資を支える仕組みづくりの重要との認識を示しました。

本学教授も独自の視点で課題を指摘
次に登壇した本学の上竹良彦特任教授は、医療における損税問題の本質について、医療機関ごとの「負担と補填のズレ」、そして患者側が実質的に消費税を負担しているにもかかわらず、その認識を持ちにくいという「認識のズレ」の2点から整理しました。さらに、非課税とゼロ税率の制度的違いを解説し、診療報酬による平均補填方式では構造的限界があると指摘。高度医療を支える設備投資にも影響が及んでいる現状を踏まえ、医療制度の持続性という観点から抜本的議論の必要性を訴えました。

5人目に登壇した本学の大林尚特任教授は、ジャーナリストの視点から、医療における消費税負担が「見える化」されていない現状を問題提起しました。診療報酬には消費税相当額が反映されているにもかかわらず、患者には十分認識されておらず、制度の透明性に課題があると指摘。また、インフレや建設費高騰の中で、高度医療を担う病院の設備投資が停滞すれば、その影響は患者や地域医療に直結すると強調し、診療報酬という公定価格だけに依存しない新たな医療提供体制や財源構造の必要性についても言及しました。

議論全体を統括した矢野所長は、財務省で主税局長、主計局長、財務事務次官を歴任し、税制改正や予算編成、社会保障政策に長年携わってきた経験を踏まえ、消費税は本来、転嫁されていくものであると説明したうえで、医療と消費税の問題は、単なる医療界内部の課題ではなく、税制、社会保障、財政運営を横断する国家的テーマであるとの視点を提示しました。医療機関経営の現場課題と財政・税制上の論理を接続しながら、制度の持続可能性と国民負担の在り方を見据えた議論の必要性を強調。「この問題を放置しておくことはあり得ない」と指摘し、医療現場、行政、政治、国民それぞれの立場を踏まえ、多角的かつ建設的に論点整理を進める重要性を示しました。

第一部 総括
続いて第一部の総括として、厚生労働省の仁木博文副大臣と梅村聡衆議院議員が登壇しました。仁木副大臣は「医療機関経営がインフレや人件費・材料費高騰の影響を受け、これまで以上に厳しい状況に置かれる中で、消費税問題は医療提供体制の持続性を左右する重要課題。特に地方医療を支える病院では消費税負担を含む運営コスト上昇が経営悪化に直結し、補填率を上げて補填したとしても間に合わず、地域医療崩壊にもつながりかねない」と指摘。その上で、医療制度を持続可能なものとするためには、消費税問題を含む税と社会保障の在り方を抜本的に議論する必要があると述べました。また、税制の三原則である「公平・中立・簡素」に加え、国民が負担の実態を理解し納得できる「納得性」の視点も重要だと強調。医療と税の問題を広く国民に発信していく必要性を訴えました。

次に登壇した梅村議員は、診療報酬による補填の不透明性を国会で早くから追及してきた経緯を紹介し、現在も自民・維新連立合意の重要テーマとして議論を進めており、2025年10月の連立政権合意書に「高度医療機器および設備の更新等に係る消費税負担の在り方の見直し」が盛り込まれたと説明しました。その上で、問題の本質は「税制の構造」にあり、本来は「税の問題は税で解決すべき」であるとの指摘し、診療報酬による補填を増やせば、結果的に社会保険料負担の増加にもつながるため、単純な補填強化だけでは解決にならないとの考えを示しました。また、病床再編や医療機関の集約化、人材不足対策、運営コスト削減など、社会保障改革全体の中でこの問題を捉える必要があると強調し、税制・医療政策双方からの制度改革が必要であると述べました。

第二部 パネルディスカッション
パネルディスカッションは、本学の鈴木康裕学長がモデレーターを務め、パネリストとして塩崎元厚生労働大臣、神野正博全日本病院協会会長、堀真奈美東海大学教授、仁木副大臣、梅村議員、矢野所長が登壇。医療における控除対象外消費税問題をめぐり、医療界、行政、政治、大学関係者、産業界の立場から、制度改革の方向性と実現に向けた課題について活発な議論が行われました。


鈴木学長はまず、「今の控除対象外消費税への対応では、もはや立ち行かない」と指摘したうえで、私見として「加算の精緻化のために非常に詳細な調査を重ねることは、時間の無駄で、むしろ医療機関が仕入れ時に支払った消費税分をシンプルに還付し、かつ患者さんに転嫁されない仕組みを構築すべきである」と提案しました。その後、会場からパネリストを壇上に1人ひとり呼び込むかたちでスタートしました。
最初に塩崎元厚生労働大臣が呼び込まれ、「塩崎先生は私が厚生労働医務技監時代の大臣でございます。今日はサプライサイドとして各団体の方がお話をされましたが、サプライサイドだけではない見方として、これまでの課題整理について良かった点、不足していた点に触れていただき、今後の出口についてのお考えをお聞かせください」とマイクを渡しました。

塩崎元厚生労働大臣は、医療機関における消費税問題について、「特に、診療報酬による補填は“平均点”での対応に過ぎず、設備投資や高額医療機器を積極的に導入する医療機関ほど不利になる」とし、「頑張る医療機関が報われる制度」に改める必要性を訴えました。 また、医療や介護を課税化し、ゼロ税率を適用することで、患者負担を増やさずに仕入税額控除を可能にすべきだと提案。「見えない負担」として国民から徴収されている現状は不透明であり、国民にとって納得感がないと述べました。さらに、医療イノベーションやDX、AI導入など将来投資を阻害しない制度設計が必要だと強調。加えて、「長年続く医師優遇税制(28%特例)についても、新時代に合わせた見直しが必要ではないか」と言及し、小規模医療機関も今後はAIやオンライン化などへの投資が不可欠になるため、単純な優遇維持ではなく、地域医療や未来の医療を支える新しい支援体系を再構築すべきだと述べました。最後に、現在の制度は租税三原則である「公平・中立・簡素」に反しているとし、透明性の高い制度改革を求めました。
また、全日本病院協会の神野正博会長は、「薬をはじめとする消化材料以外の建物や設備の更新、高額医療機器、委託費、DX導入、災害復旧など、医療機関には多くの場面で消費税負担が生じる」とし、自身の能登半島地震の被災経験にも触れ復興費用についても言及。「還付されない消費税負担」は医療機関にとって極めて大きな問題だと指摘しました。その上で、「税の問題は税で解決するべき」と述べ、損税・益税の議論ではなく、病院と診療所を分けずにシンプルで公平な制度へ見直す必要性を訴えました。また、AIやDXの時代において事務負担を理由に改革をためらうべきではないとし、未来志向で医療制度改革に挑戦すべきだと強調しました。

その後、登壇者からは、現行の診療報酬による補填方式では、病院ごとの設備投資や機能差、経営実態を十分に反映できておらず、特に高度医療機器導入、病院建て替え、DX推進、人材確保など将来に向けた投資を阻害しているとの指摘が相次ぎました。建築費や人件費、委託費の高騰に加え、設備更新や災害対応にも多額の消費税負担が生じており、地域医療を支える病院経営への影響は深刻化しているとの認識が共有されました。
また、大学関係者からは、日本の医療がこれまでデフレ環境の中で何とか維持されてきた一方、急速なインフレ局面への転換によって従来型の制度運営が限界を迎えているとの指摘も。さらに、電子カルテやDX投資など、将来の医療提供体制を支える成長投資についても、投資主体と受益主体が異なる構造の中で社会実装が進みにくい現状が示され、医療イノベーションを阻害しない制度設計の必要性を訴えました。
議論では、「税の問題は税で解決すべき」との考え方が複数の登壇者から示され、課税化やゼロ税率化を含めた抜本的改革の必要性について一定の方向性が共有されました。一方で、診療所を含めた制度移行時の事務負担、国民理解、医療費負担への影響など、なお多くの論点が残されていることも確認されました。
最後に、医療と消費税問題は単なる病院経営の課題ではなく、社会保障と税の一体改革、さらには将来の医療提供体制そのものに関わる国家的課題であるとの認識が改めて共有され、透明性と納得性を備えた制度改革に向け、医療界、政治、行政、メディア、国民が一体となって議論を深めていく必要性が強調されました。

指定発言
パネルディスカッションに続き、客席で参加されている、医療を支える各分野の方々からも発言していただきました。
キヤノンメディカルシステムズ 瀧口登志夫会長
「今日の議論を通じて、医療と消費税の問題は、単なる病院経営の問題ではなく、医療の質や安全性、持続性に関わる非常に重要な課題であるという認識を強く持った」と述べました。その上で、高額医療機器メーカーの立場から、「控除対象外消費税が病院の設備投資判断に影響を与え、将来の医療水準やイノベーション推進にも関わってくる」と語りました。

総合メディカルグループ株式会社 多田荘一郎代表取締役社長
「現行制度のままでは、医療提供体制やイノベーションを支えきれなくなる可能性がある」と指摘しました。また、「補助金中心の制度では、医療機関の創意工夫や患者本位の病院づくりを阻害しかねない」と述べ、「患者や医療機関双方にとって、透明性と納得性を備えた制度設計が必要である」と強調しました。

千葉大学 横手幸太郎学長
「これまでデフレ時代には何とかやりくりしてきたが、急速なインフレ転換によって、従来の医療提供体制が限界を迎えつつある」と述べました。その上で、「大学病院は地域医療を支えるだけでなく、人材育成や研究を通じて未来の医療をつくる役割も担っている」と説明し、持続可能な医療体制を再構築する観点から消費税問題を議論する重要性を訴えました。

JCHO山本修一理事長
「2014年に消費税が5%から8%へ引き上げられた際、大学病院で本当に補填されているのか調べたところ、実際には6割程度しか補填されていなかった」と振り返りました。また、「病院建て替えや設備更新、DX推進など、今後必要となる投資にも大きな消費税負担がかかっている」と述べ、現行制度の限界について問題提起しました。

自見英子参議院議員
「医療における消費税問題は、医療界だけでなく国民全体に関わる重要課題であると認識している」とした上で、「今回のシンポジウムを通じて問題構造への理解が深まり、関係者間で課題認識が共有されることを期待している」とコメントしました。また、「持続可能な社会保障制度構築に向けた大きな一歩になってほしい」とメッセージを寄せました。

閉会挨拶
閉会挨拶に立った日本病院会の相澤孝夫会長は「医療界における消費税問題に関する一番の問題点は、これまで『あちらがだめならこちら』などと繰り返し、対応方針を十分に一本化できてこなかったことです。医療界が一致団結し、制度改革に取り組むことが極めて重要です。『ゼロ税率で行く』ということでみなさんの意見を集約したいと思いますが、いかがでしょうか」と会場に投げかけました。会場の聴衆は相澤会長の呼びかけに大きな拍手で応えました。

本シンポジウムの締めくくりとして、鈴木学長は、医療と消費税問題について、単なる財政・税制論ではなく、将来の医療提供体制やイノベーション推進に直結する課題であると総括しました。補助金中心の制度では、医療機関の創意工夫や患者本位の病院整備を阻害しかねないと指摘し、予見性や投資の中立性を確保した制度設計の必要性を強調。また、国民への情報公開と透明性を高めながら、社会保障と税の一体改革の中で議論を深める重要性を訴えました。

約3時間にわたり行われ、盛会のうちに幕を閉じた本シンポジウム。課題多き日本の社会保障政策にとって一筋の光となるような議論が交わされた有意義なひとときとなりました。