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新型コロナウイルスの全ゲノム配列解析 高頻度に変異することが判明 新たな変異株が日本で発生する可能性も

 国際医療福祉大学成田病院、国際医療福祉大学ゲノム医学研究所は、今年7月末時点までにPCR検査で陽性と判定したほぼ全例に相当する768検体について、最先端の次世代シーケンサー(NovaSeq)を用いてウイルスの全ゲノム配列を解析しました。

■今回の解析で判明しましたことは、以下のとおり。
・新型コロナウイルスは高頻度に変異を生じている。
・一人からの検体でも、変異を生じたウイルスゲノムが低頻度で見出される例が約半数ある。
・感染爆発の過程で変異が集積、その結果、ウイルスの性質が変わる可能性もある。
・感染を続ける過程で、新たな変異株が日本で発生する可能性もある。

■今回の解析を担当した国際医療福祉大学・ゲノム医学研究所所長の辻省次教授のコメント
 「新型コロナウイルスは感染が繰り返される過程でおびただしい数の変異が生じており、この蓄積が、より感染力の強い日本株を生じさせるリスクが常に存在します。引き続き、新型コロナウイルス感染症に対して高い臨床力で対応するとともに、感染防止や公衆衛生に資する研究を進めながら、有益な情報の提供や提案に努めることが必要です。同時に、感染経路のトレースの可能性など、ゲノム配列解析が新型コロナウイルス感染症の対策に大きく役立つ可能性をもつこともまた確認できました。PCR検査は1点しか見ないので全貌が把握できませんが、その点、ウイルスゲノムの全ゲノムシーケンス解析は、ウイルス感染の動態を把握するのに有用で、日本全体で協力しながら進めることが大切です」

■解析データについて
◇アルファ株、デルタ株が急激に増加
 今回の解析はNovaSeqの利点を生かし、同じ場所を10,000回以上読み取る高深度解析の手法を採用しました。この手法は低頻度変異の解析に強力であることが特長です。
 解析の結果、変異株の比率は2021年2月以降、アルファ株、デルタ株が急激に高まっていることが分かりました(図1)。これは、これまで国内で報告されてきた変遷と一致します。また、デルタ株の特徴として、鼻咽頭粘液中のウイルスゲノムのコピー数が多いことも同様に確認できました(図2)。

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図1 変異株の推移

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図2鼻咽頭粘液中のウイルスコピー

◇スパイクタンパク部位に多数のアミノ酸置換を伴う変異
 RNAウイルスである新型コロナウイルスは、高頻度で変異を生じることが知られていますが、今回の解析でも多数の変異が検出されました。例えば、スパイクタンパク領域に限定しても、アミノ酸置換を伴う変異として130種類ほどの変異が見られます。これは、特定の変異のみを検出するPCR検査では得られないものであり、ゲノム配列解析の意義がうかがえる結果です。

◇同一宿主内多様性(within host diversity)
 一人の検体の中に、複数の異なる変異をもつウイルスゲノムが観察される例がありました。これらは、同一宿主内多様性(within host diversity)と呼ばれるもので、ウイルスゲノムに高頻度に変異が生じていることが推測できます。
 768検体という比較的大きなデータから、新型コロナウイルスのウイルスゲノムに高頻度に変異が生じていること、感染を繰り返す過程で多数の変異株が生まれていること、それらがウイルスの性質を変化させる可能性をもつことが伺えました。

国際医療福祉大学成田病院、国際医療福祉大学ゲノム医学研究所
 国際医療福祉大学成田病院は、国際医療福祉大学医学部の本院として、2020年3月、新型コロナウイルス感染症に対する社会的要請に応え、当初の予定から1か月前倒して開院いたしました。国際医療福祉大学ゲノム医学研究所は、ゲノム医学研究の第一人者である辻省次教授(元東京大学ゲノム医科学研究機構長)が所長を務め、日本では導入事例が少ないNovaSeq6000を駆使しながら、世界最高水準のゲノム解析研究を進めています。NovaSeqは次世代シーケンサーと呼ばれ、ゲノム配列を大量に高速で読み出すことが可能です。こうした研究を通じて、ゲノム医療を推進していくことがゲノム医学研究所の目的です。