ヒト・パピローマ・ウィルス(HPV)ワクチンについて

     
 子宮頚癌?まだ心配しなくともよいんじゃないの?   子宮頚癌は、年間約15,000人の女性が罹患し、毎年約3,500人が死亡する疾患です。20歳代後半から30歳代後半にかけ罹患率がなだらかに増加し、その後横ばいに推移します。
 子宮頚癌は、ヒト・パピローマ・ウィルス(HPV)感染により引き起こされる癌です。性交渉により感染したHPVは、子宮頚部の基底細胞(幹細胞)に感染して、感染細胞の増殖を促します。大部分の感染細胞は、免疫機序で自然に排除されます。一部の感染細胞は、増殖を続け癌化します。HPVは、100種類以上の型が同定されていますが、その中で子宮頚癌に関係しているのは、HPV16,HPV18, HPV58など約15のハイリスクHPVです。
 現在、我が国で実施されているワクチンは、子宮頚癌の60〜70%の原因になっているHPV16およびHPV18に対するワクチンです。疫学調査により、ワクチン接種により同じ型のウィルス感染が予防されるだけでなく、交差免疫反応や集団免疫の効果によって、HPV31,33,45等の感染が予防されていることが判ってきました(Lancet Infect Dis 17(12):1293,2017)。また、スコットランドと米国の調査で、初期の子宮頸癌(CIN2,3)の罹患率を下げていることが判明してきました(J. Epidemiol Community Health 71(10):954,2017. Academic Pediatrics 18:S3-S10, 2018)。
私でもワクチンの効果があるの?  ワクチン接種時期は、性交渉の始まる以前が望ましいのですが、その後であっても効果は期待できます。国際癌研究機関(IARC)が実施した15歳から74歳までの女性対象者15万人の国際共同研究では、年齢調整HPV感染率は10.5%(ハイリスクHPVに限れば、約7%)です。すなわち、性交渉を経験した後でも大多数の女性は、HPVに持続感染しておらず、これらの女性は、ワクチンの恩恵を被るチャンスがあります。
 ワクチン接種場所・回数・費用を教えて?  HPVワクチンは、任意接種のワクチンです。国際医療福祉大学病院婦人科やクリニックで接種できます。予約制になりますので事前にお問い合わせ下さい。初回、1ヶ月後、半年後の都合3回筋肉注射を行います。費用は、全額私費の場合約5万円です。 
 ワクチンを接種したなら、子宮癌検診は受けなくとも良いの?  現在の子宮頚癌ワクチンは、HPV16およびHPV18に対するワクチンです。  欧米の調査では、ワクチン接種により、一定程度その他のハイリスクHPVに対する交差免疫も誘導される事が示されています。一方、ワクチン接種前にHPV16やHPV18感染により腫瘍化した細胞を排除する事はできません。このため、ワクチン接種の如何にかかわらず子宮癌検診を受けることをお勧めします。
 日本では、20歳以上の女性は隔年に子宮癌検診を受けるよう推奨しております。
 ワクチンの予防効果は?  ワクチン3回接種後少なくとも6.4年間は自然感染時と比較して12倍以上の抗体価が持続しました。スコットランドの調査によると、HPV16,HPV18に対する2価ワクチン接種でも,それ以外のHPVに対する交差免疫が誘導されることもあり、子宮頸癌の初期病変(上皮内腺癌CIN2および3)が減少しております。
 ワクチン接種の副作用は?  ウィルス粒子を構成するタンパク質からなるワクチンでウィルス遺伝子は含みません。このため感染のリスクはありません。
  免疫感作を強化するために、2種類のアジュバントが含まれています。他のワクチンに比して、注射局所の炎症反応(筋痛、腫脹、発赤など)は強くなると思われます。メディアで大きく取り上げられたワクチン接種後の疼痛性の症候群とHPVワクチンに特異的な反応ではないとされ、全世界でHPVワクチン接種が継続されています。
 希ではありますがアレルギー反応による副作用リスク (アナフィラキシー、ギラン・バレー症候群など)が、他のワクチンと同様にあります。

 男性は受けなくて良いの?

 ヒトパピローマウィルスは、性交渉で感染拡大するウィルスです。子宮頸がんだけでなく、男性のび咽頭癌や肛門部の癌などの原因となります。米国では2011年から定期接種のワクチンに追加されています。集団免疫を獲得する意味でも、男性もワクチン接種が推奨されます。